明石市民フォーラム

第10回「こんな医療制度はビョーキだ!!」Q&A

アメリカの医療制度の特徴をもう一度説明してください。
アメリカには先進国で唯一、日本のように全国民をカバーする公的医療保険制度がありません。低所得者や高齢者・障害者には国や州の運営する公的医療保険がありますが、国民の半数近くが企業の用意した民間の医療保険に入り、医療をいわゆる「市場原理」に任せています。そのため国民の7人に1人、約4700万人に保険が無く、今も増え続けてアメリカ国内では大きな問題になっています。
なぜそんなに保険の無い人が多いのですか?
無職の人はもちろん無保険ですが、保険を用意していない中小企業も3分の1ほどあります。自営業者も自分で保険を選んで契約しなくてはなりませんが、平均的な医療保険の保険料は一人当たり月に300~500ドルですので、年間日本円では36~60万円にもなります。平均的な4人家族だと年間200万円近くの保険料が必要です。収入が低いからといって保険料が安くなりませんので、年収2万ドル以下の世帯の半数は無保険です。もちろんお金持ちは保険料の高い高級の保険に入れます。
でも、一般の企業に勤めて私的民間保険に入っていれば安心ですね。
そうでもありません。以前にかかった病気や治療中の病気のために保険に入れなかったり、高額の保険料を支払う必要があります。また、入った保険のランクによって診てもらえる医療機関が限られたり、検査や治療内容が制限されるので大変です。映画でもわかるように、保険会社はいろいろと文句を言って受診を制限し支払いを拒否します。そのためアメリカの年間個人破産200万件の約半数は医療費を払いきれないのが原因です。
アメリカの医療は世界最高だと聞きますが…。
治療の内容は高レベルですが、入っている保険のランクによって受けられる治療に大きな差がつきます。さらに無保険の人は日本と違って一般の私的病院が診察する義務はなく断られることが多いのです。まさに「お金の切れ目が命の切れ目」。アメリカのGDPに占める医療費の割合は15%以上で世界一お金を使っていますが、健康寿命は29位、乳幼児死亡率は日本の倍で平均寿命も短く、総合的に見れば決して最高とは言えません。

第10回フォーラムの様子1 第10回フォーラムの様子2 第10回フォーラムの様子3 第10回フォーラムの様子4 第10回フォーラムの様子5

日本の医療保険制度と比べてどんな違いがありますか?
民間保険会社の患者さんや医療機関に対する管理が厳しいのです。営利企業である民間保険会社からみれば患者さんの治療費は「損失」ですので、「なるべく受診させない、治療させない」が原則となります。規制緩和と市場原理で民間保険会社に医療を管理させ、株式会社経営の病院に競争させれば「安くて質の良い医療」が行われると考えましたが、世界で一番お金のかかる医療制度になっています。
アメリカに比べて他の国の制度は素晴らしいようですね。
各国にそれぞれ一長一短があります。キューバとイギリスはいわゆる「家庭医」を最初に受診しなければならず、必要と認められなければ病院にかかれませので日本人にとっては不便に感じるでしょう。キューバは経済封鎖によりアメリカの医療器械、医薬品は入りません。しかし外国人用の病院があり、国際医療援助には積極的です。予防医療には力を入れていますが、最新医療機器は少ないようです。イギリスは税金が主体の公営医療で、医師、看護師、病床数を制限していますので入院、手術は待ち時間がとても長く、白内障なら約1年、乳がんですら3カ月待ちとなっています。そのため海外で治療を受ける人も少なくありません。フランスは医療費の対GDP比率や人口あたりの医師数は日本より多いのですが、外来は一旦全額を支払い、後で患者さんが保険請求するかたちをとっています。映画で紹介された救急往診も都市部に限られているようです。
日本の医療制度はどうでしょうか?
2000年のWHOの健康達成度評価では総合第一位でした。健康寿命も第一位でしたし、周産期死亡率、乳児死亡率、妊産婦死亡率もトップクラスでした。お年寄りが健康で長生きし、生まれてくる子供もお母さんも安心・安全でした。どこの医療機関にいつでもかかれましたし、入っている保険や持っているお金によって治療を変えたり診療を断ったりしませんでした。しかし世界的に低い医療費でこれらの結果を出すのももう限界に来たようです。
日本の医療費が安いとは感じませんが…。
それは患者さんが窓口で支払う金額がほかの国に比べて高いからです。実際には日本の入院や手術の値段は安く、たとえば盲腸の入院手術は東京では3~40万円ですが、欧米では100~200万円はかかります。通常の出産でも一泊で100万円、帝王切開なら2泊でその倍のお金が必要です。
なぜ映画では安くて評価の高い日本の医療制度が取り上げられなかったのですか?
診察待ち時間の長さ、医師・看護師・病院職員の少なさ、プライバシーの無い大部屋、共同浴場などの入院環境の悪さがアメリカ人には耐えられないためです。またヒラリー・クリントンが皆保険を導入しようとし日本へ視察団を送りましたが、その担当者は日本の医療従事者の働きぶりを「聖職者さながらの自己犠牲」と驚き「このシステムをアメリカに導入するのは不可能だ」とあきらめました。
日本の医療制度の問題点は?
何といっても医療にお金をかけていません。日本のGDPに占める医療費は8%と先進7カ国中で最低で、OECD加盟30カ国中でも21位と低いのです。人口当たりの医師数もOECD加盟30カ国中27位と少なく、国民の医療、すなわち生命や健康を重視していないとも言えます。国の力に見合った医療費を出していないから現場の頑張りも限界にきています。最近は医師不足をきっかけに産科、小児科を閉鎖する病院も続出しています。

日本の医療制度に関してご意見、ご要望のある方は
厚生労働省 医政局 総務課(FAX:03-3501-2048)までFAXで、
又は、厚生労働省のホームページの"ご意見"のコーナーまで