明石市民フォーラム

第9回「どうなる明石のお産」Q&A

どうしてこんなに急に全国的にお産ができないところが増えているのですか?
これは産婦人科の医師不足が主な原因です。そして、この不足の原因には沢山の要素がかかわっています。まず20年位前から少子化傾向で全体の分娩数がだんだん減ってきたこと、また昼夜を問わず働かなければいけないことで、産婦人科を選択する若い医師も減ってきたことがあります。 さらに医療訴訟が増え、しかもその賠償額が他科の訴訟に比べても高額なこと(赤ちゃんの高度脳性まひなどが起こった場合)や福島県で帝王切開後の妊婦が死亡したことで産婦人科医が逮捕される事態も起こり、ますます産婦人科が敬遠されるようになって来ています。そこに平成16年度から始まった新研修医制度で、すべての研修医が2年目に産婦人科を2-3ヶ月研修することになり、産婦人科の実労働の過酷さを実体験して産婦人科医を希望する医師がさらに減少しました(産婦人科志望者はそれまでの30.4%減少)。
産科勤務医が減少した理由は他にもありますか?
はい、これは地方の公立病院全体のその他の科の医師不足にも共通する問題ですが、先ほど述べた新しい研修医制度のため、すぐに実働できる産婦人科医が育たないことにより、そういう派遣医師を頼りにしていた大学関連の地域の総合病院(明石市立市民病院もそうですが)の産婦人科がたちまち医師不足となり、まず人手のいる産科、さらには婦人科まで存続できなくなってきているのです。例えば月に10件くらいしかお産のない病院でもそこに産婦人科医が一人しかいなくては、いつ始まるかわからないお産にその医師は365日24時間拘束されているわけです。 これでは休むことはできず、勤務医にはつらい状況です。実際の統計でも産婦人科勤務医の月平均の当直回数はその他の科の勤務医の1.5-3倍あります。
明石市立市民病院で今年6月から分娩が休止されるのは、結局産婦人科医が足りなくなるからなのですね。ではまた産婦人科医が増えたら、再開できるのですか?
その通りですが、産婦人科医総数の少ない現状で、増える見通しは今のところありません。ただお産には医師だけでなく、むしろ助産師が大きくかかわっています。市民病院には経験のある助産師はまだちゃんとそろっているので、今は何とか助産師による分娩が存続できないか検討しているところです。
実は助産師外来、院内助産所というのは、医師のみによる妊婦検診より妊婦さんにきめ細かい指導がしてもらえるというので好評で、全国的にも広まりつつあります。
では助産師外来を導入するのに、何か問題はあるのですか?
古代から分娩とは自然なもので、40-50年前までは助産師による介助で生まれてきていた歴史があります。確かにまったく正常に経過するお産は助産師だけで行えます。はじめは病院で出産したけれど、二人めはゆっくり助産院で産めて良かった、満足したという感想を聞くこともよくあります。
しかし、分娩は生死にまでかかわる極めて危険の大きい営みであることを皆さんご存知でしょうか?
最近の日本の出産の現状は99.8%まで病院、診療所での出産で約1%が助産院、0.2%が助産師による自宅出産などです。 その結果として、日本は世界でも1-2位の周産期の胎児、新生児死亡や妊産婦死亡の少ない国になりました。 分娩がはじめから最後まで必ず正常な経過をたどるかどうか前もって予測はできません。実際、帝王切開やその他の合併症で医師の介入の必要な出産は、全体の約20-30%くらいに起こります。分娩時に傷ができて縫い合わせる必要がある程度の軽度なものも含めると50%以上にもなります。ですから、助産師分娩の大きな難関は、少しでも経過に異常のあった時に速やかに対処できるかというところです。例えば分娩経過中に赤ちゃんが仮死状態になったときは一刻も早く分娩させなければいけませんので、医師が(しかも最低2人の医師で)緊急帝王切開を行ったり、吸引分娩を行ったりします。また生まれてきたときに、泣かなかったり異常がわかれば、すぐに小児科医による検査や治療が必要になります。出産後の大出血やら産道が大きく切れた場合の修復も早急な医者の処置が必要です。一番問題なのはこれらのことは、突然起こり、迅速に対応しないと母子ともに生死にかかわったり、その後の重症の後遺症を残す結果になることがあるということです。
それでは、もし分娩の途中で異常が起こったときは誰が責任持ってみてくれるのですか?
それが一番問題です。常勤医師ですら尻込みしたくなるこれらの事態に、緊急時の医療行為の行えない助産師がどこまで責任を持てるのか、また近隣の産婦人科医や、小児科医の協力や迅速な対応を仰げるのかということが大きな問題点です。しかもこれは致命的な事態が起こってしまってから賠償責任は誰が持つのかという問題で片付くことでもありません。 実際に金銭に変えがたい被害をこうむるのは亡くなったり後遺症を残す母児やその家族です。この問題に対しては個々の産婦人科医や小児科医と助産施設の間の個人的なつながりや協力だけでは到底解決できず、市町村や国が幅広い視野で救急搬送や医師確保のネットワークシステムなどを考える必要があります。 ですからまだそういう体制が十分整っていない現状では妊婦さんやその家族はそれらのリスク及び快適さの両方の長所、欠点を十分踏まえて、事前に納得して病院や助産所を選んでもらわなければいけないと思います。
最後に、これから妊娠を考えている方へのアドバイスがあったら教えてください。
まず妊娠前からタバコはやめること、体重はできれば標準体重に近づけてから妊娠すること、病気を抱えていたりそれで薬を飲んでいる人は、妊娠したくなったらまずかかりつけ医に適当な時期を相談すること、糖尿病傾向の人は特に妊娠前から血糖をコントロールすること、などがその後のリスクの高いお産にならないために大切です。
それからなるべく若いうちの妊娠の方がリスクは低いのですが、高齢で出産せざるを得ない人は特に是非、妊娠前からビタミンの一種の葉酸をしっかり取ってください。葉酸はほうれん草、春菊、ブロッコリー、レバー、サツマイモ、納豆、アボカド、イチゴ、オレンジ(ジュース)、バナナなどに多く含まれ、先天胎児異常の予防につながります。
妊娠がわかれば、まず早めに産婦人科に受診すること。そこで異常がないことを確認されたら、その後は自分のリスクを見極めた上でどんなお産をしたいかをしっかり検討して、分娩施設を選ぶことが大事です。ただ残念なのは自分の行きたい施設がはやめに分娩予約を締め切っている場合もあるので、複数の候補を考えておいたり、あまり迷いすぎずに早めに決断することも必要になります。むしろ、妊娠前からいろいろ調べておくぐらいのゆとりがあった方がいいかもしれません。
安全で、スクスク育ってくれる健康な赤ちゃんを産むためには、皆さん一人ひとりの自覚も大切です。

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